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「保持」(retention)の大切さ  第2回

【今日のテーマ】 

     ●  「保持」(retention)の大切さ  第2回 ●
  
           ~ 同時通訳のリテンション ~           


 前回は、「保持」(retention)の大切さの第1回でした。

「保持」とは、前のセンスグループの内容をしっかり記憶した上で、先に進
 みましょう、ということでしたね。

 この「保持」が充分になされないと、全文を確実に理解することができま
 せん。「保持」が弱いと、あの忌まわしい「返り読み」になってしまうから
 です。



 昨年、ずっと勉強した「期待」(anticipation)も、この「保持」の上に成
 り立っています。

 いくら「期待」が大事といっても、前のことをどんどん忘れながら先に進ん
 でいたのでは、内容の理解はおぼつきません。

 特に、最初の述語動詞Vは長い文章を読んでいるときに、頭の中で風化して
 しまいがちです。

 なぜなら、日本語では述語動詞Vは最後に来るので、それをぼんやりと待っ
 ていれば良かった… ということで、Vを保持する力がそもそも日本人には
 ないんです。

 ですから、この保持(retention)の能力は、意識して訓練しなければなりま
 せん。
 
 最初の述語動詞、そして最初のセンスグループを充分に頭に刻み込んだ上で、
 (つまり、しっかり保持して)その後で、先を「期待」しつつ次のフレーズ
 に進むように心がけましょう。

 つまり、「保持」(retention)と「期待」(anticipation)はワンセット
 なんです。両方がそろってはじめて、スムーズに英文を理解することができ
 るんですね。



 しかし、ここでちょっと注意しておかなければならないことがあります。
 それは何かというと…

 … いわゆるTVなどでよく見かける同時通訳でも「リテンション」という
 言葉が使われる、ということなんです。

 でもこれは、ネイティブがしている retention とは、全く意味合いが違い
 ます。ちょっと立ち入った話になりますが、大切なことですので少し説明し
 ておきましょう。



 同時通訳でいう「リテンション」とは、英語を日本語に同時通訳する際の、
 いわゆるテクニックに過ぎないんです。

 わかりやすいように、前回使った簡単な例文で説明します。


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  I went to Harajuku to meet with Ichiro the day before yesterday.

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 同時通訳するまでもない短い英文ですが、これを無理して同時通訳すると
 こうなるでしょう。


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 僕は原宿に… イチローに会うために … おととい … 行きました。
                    
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 いかがでしょうか?

 なるべく英語の語順で訳そうとする姿勢はSIM方式と同じです。

 しかし、述語動詞の位置が違います。

 同時通訳では、述語動詞を最初に訳さず、保留しておいて最後にくっつける
 方法を取ります。これがいわゆる同時通訳の「リテンション」ですね。

 どうしてそんなことをするのかというと、この方が、おおかたの日本人に
 解りやすい訳になるからなんです。

 つまり、日本人は「日本語の思考法」に慣れているので、Vを最後に訳して
 あげよう、ということなんです。



 最近読んだある比較言語学の本の中に面白い記述がありました。

 その中で著者は、英語の語順は「SVO」型で、日本語の語順は「SOV」
 型であると言っていました。  ※Sは主語、Vは述語動詞、Oは目的語

 もちろん英語の場合「SVO」ではなく「SVC」であったり「SVOO」
 「SVOC」であるケースもあるでしょう。     ※Cは補語

 しかし、要するに著者が言いたいことは、「英語はS+Vが最初に来る」と
 いうことです。それが英語の本質であるということなんです。

 これに対して、「日本語はたいていの場合、述語動詞Vが最後に来る」とい
 うことですね。…これは非常な卓見だと思います。(^o^)

 ただし前述したように目的語Oではなく補語Cを取る場合もありますので、
 私としては、次のように言い換えたいと思います。
 つまり…

  英語は「文頭V」型言語であり、日本語は「文末V」型言語である、

  …ということです。

 これは、「英語はまず文頭のセンスグループに述語動詞Vが来て、日本語
 は文末に述語動詞Vが来る」、という意味ですね。

 そして、このことは取りも直さず、「英語の思考法」の本質は「文頭V」
 感覚であり、「日本語の思考法」はすなわち「文末V」感覚であるという
 ことです。



 …すると、どうなるのでしょう?

 おおかたの日本人は「英語の思考法」に慣れていません。
 つまり「文末V」感覚しか持っていません。

 このような日本人に英語を訳して聞かせる場合に、同時通訳者の人たちは
 ひとつのテクニックとして「リテンション」を使うんですね。



 そもそもなぜ、同時通訳者の人たちは英語をなるべくセンスグループごとに
 訳そうとしているのでしょうか?

 それは長い英文を訳すときに、全文を聞き終えてから「返り読み」で訳して
 いては追いつかないからなんですね。

 ですから、彼らは聞こえてきたそばからセンスグループごとにどんどん訳し
 ていきます。

 …これはSIM方式と同じ考えです。(^o^)

 

 しかし、述語動詞だけは違う、ということです。

 同時通訳者の人たちは、それを保留しておいて、最後にくっつけて訳すんで
 すね。

 なぜかというと、それは「文末V」感覚を持つ普通の日本人向けに、そう訳
 しているからなんです。

 つまり、そうしないと「英語の思考法」に慣れない日本人はめんくらってし
 まうんですね。

 つまり、同時通訳者の人たちが使っている「リテンション」というテクニッ
 クは、日本人向けのいわば「妥協の産物」なんです。

 ですから、同時通訳のリテンションと、ネイティブがしている「保持」
 (retention)とは性質が全く違います。



 ネイティブがしている「保持」(retention)は、センスグループごとに内容
 をしっかし保持しながら、先のセンスグループに進むということでした。

 それに対して、同時通訳のいわゆる「リテンション」は、訳すときに述語動詞
 をいったん保留しておいて最後にくっつける、というテクニックです。
 
 両者には大きな違いがあります。

 …皆さん、おわかりでしょうか。

「保持」(retention)が英語の語順に忠実な読み方であるのに比べ、同時通訳
 の「リテンション」は「返り読み」なんです。

 S+VからVを切り離して最後に持ってくるというのですから、結局
「返り読み」にならざるを得ないんですね。

 この「リテンション」というテクニックは、日本人に訳して聞かせる必要に迫
 られて生まれたもので、それはそれで仕方がないものなのでしょう。

 しかし、学習者はこれをネイティブがしている本来の「保持」(retention)と
 混同しないように注意する必要があります。両者をはっきり分けて考えて
 ください。

 もし皆さんが、どこかで「同時通訳のリテンション」という言葉を聞いたとし
 ても、その時は、今日の話を思い出して混乱しないようにしてください。

 
      …この続きは …また次回。

                     お楽しみに! \(^o^)/
by danueno | 2006-02-02 15:40 | SIMうんちく


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